創作TANPEN

【創作TANPEN】奇跡の缶詰フォンデューニュ

奇跡の缶詰フォンデューニュ
~歯を大切に?~
この記事は、約7分で読めます。

議員先生は、腕を組んで考え込んでいる。

「いったいどうしたらよいものか…あれを原理的には密造する事ができるようになるわけだ…」

秘書が言った。

「私だって、あの缶詰を朝食に頂いてます…おかげで体調がすこぶるいいです。

逆にこれを、好機ととらえてみてはいかがでしょうか?

児童労働などの問題はありますが、適切な形で法整備をすれば、この国の未来は明るいです。何より少子化対策にもなります…」

(秘書というのは、いつの時代も機転がきくものだ…)

この発見を伝えにきた研究員は内心そう思った。

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20xx年、地球に宇宙から無線通信が入った。

物理的には何億光年と離れており「宇宙」の人々とは直接会う事はできないが、互いに情報のやりとりができるようになった。

もっとも向こう側の人々からすれば、私達も「宇宙人」である。

(わかりやすくするために、地球の人々を「地球人」、向こうの人々を「宇宙人」と呼ぶ事にする)

宇宙人の通信回線と地球のインターネット回線が接続され、地球人は個人で宇宙人とSNSを通して交流できるようになったのである。

宇宙人の科学技術は、分野によっては地球人より進んでいる物もあれば、そうでないものもあった。

宇宙人の肌と髪がグリーンである事を除いて、見た目は地球人とそう変わらなかった為、お互いを受け入れるのに時間はかからなかった。

地球人は、猿が祖先であり、宇宙人カエルが祖先である。違いはそれだけであった。

宇宙人地球人のSNSアカウントをフォローし、地球人宇宙人のSNSアカウントをフォローする。

互いに情報を共有し合って共々よりよく生きようという事になった。

なかでも、食べ物を美味しく調理する技術は地球人の方が進んでおり、宇宙人には大いに歓迎された。

宇宙人から提供された情報の中で、最も画期的なものは、栄養機能食品であった。

自然界の酵素が絶妙のバランスで調合された「酵素X」という無色無味無臭の液体の製造方法である。

宇宙人は消化吸収の機能が地球人ほど発達していない為、酵素X宇宙人の間では必需品であった。

酵素は、あらゆる生物の体内にも存在している生命維持に欠かせない物質である。食べ物の消化吸収、エネルギー生産など生命活動において重要な役割を果たしている。

酵素Xを、食事に回しかけるだけで食材が持つ力が120%解放され、さらに栄養素がより消化吸収されやすくなる。

地球人は、宇宙人から提供された設計図を元に酵素Xの生産体制を整えた。

酵素Xは、自然界の酵素を時間をかけて調合していく必要があった為、完成品として提供される量は、多くはなかった。

大量生産に不向きであった為、酵素X高値で取引された。

やがて酵素Xは健康と若返りの秘薬として、加工食品や化粧品に使われるようになっていった。

加工食品の中で大ヒット商品となったのが…「奇跡の缶詰フォンデューニュ」とネーミングされた缶詰である。

これは、宇宙人御用達レシピで、栄養をふんだんに含む食物を粉砕して、少量の酵素Xと混ぜ合わせただけのシンプルなものである。

見た目はキャットフードみたいで、特に美味しいわけではないが…宇宙人のレシピという事で地球人の間ではブームとなった。

お値段は、普通の缶詰の5倍ほどするが、連日飛ぶようにうれた。

それから数か月の月日が流れた・・・

ある時、酵素の研究員が大発見をした。

「出来る事なら知らなかった事にしたい」

研究員は内心そう思いながら、議員先生を訪ねた。

「議員先生様…酵素Xは赤ん坊のヨダレの成分と化学式上は、まったく同じです」

少し間をあけてこう続けた。

「併せて成人のヨダレと比べてみましたが、成分は赤ん坊のヨダレとは異なります」

議員先生は腕を組みながらうつむいてソファーに腰かけている。

秘書は話を聞きながら、しきりにメモをとっている。

そんな事ちょっと調べればすぐにわかる事であった。だが、宇宙人との交流を開始した当初は地球の技術担当部門は様々な事で手がまわらなくなっていた。

地球に存在する様々な材料を組み合わせて作られた酵素Xがまさか赤ん坊の唾液と同じ成分とは夢にも思わなかったのだ。

議員先生は立ち上がり窓際まで進むと遠くを眺めながら考えた…

子供の頃、母によく言われたものだ

…よく噛んで食べなさい…

噛む事で唾液が出て、食材が分解されやすくなるから…と知ったのはだいぶ成長してからの事だったな…

議員先生が回想にふけっている間、有能な秘書は考えをめぐらせていた…

酵素Xはヨダレ

国民にこの事実を伝えたら心理的な問題もあり一時的な騒ぎになる

赤ん坊がいる子育て家庭は自前の酵素X(ヨダレ)をすぐにでも用意できるようになる

これは国をあげて、ヨダレを買い取る体制を整える必要がある

粗悪品のヨダレが市場に出回らないように、国が法整備をしっかり整え、ヨダレの提供家庭には十分な経済対価を保証する必要がある

赤ん坊の健康を害する範囲でのヨダレ提供は禁止しなければ

場合によっては、赤ん坊の誘拐事件が多発するかもしれない

諸外国もこの動きに追従するかもしれないが…ヨダレの輸出はせず地産地消の体制を整える…etc

やる事は山積みだ…だが宇宙人との無線通信が始まった時の忙しさと比べたらまだ良い方だ…

法整備を整えてから、国民へ開示したほうがよい

各機関との意見交換も重要だ

それから先生に記者会見を開いていただくか…

問題は、その他議員先生方をどう導いていくかだ…

研究員には、機密保持契約を締結してもらおう。これは国家の一大事だ

記者会見は30日後だ。こういう場合はスピードが大事

秘書は議員先生を説得し段取り良く物事を進めていった。

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者会見当日

例の研究員が、また議員先生を訪ねた。

「先生様、秘書様…また新しい発見がありました…

成人も食物をよくよく噛む癖をつければ酵素Xと同じ生成物が口の中に形成される事がわかりました。

ただ普段の3倍程度はよく噛む必要があります。

そして…地球に酵素Xが伝わったのと同時期に、宇宙人の間で流行りはじめた地球の品があるそうです。それは【入れ歯】だそうです。

宇宙人は歯があまり発達していなかった為、消化吸収をよくする酵素Xを活用していました。

宇宙人はカエルが祖先という事もあり「かみ砕く」という行為にあまり慣れていなかったようです。

宇宙人が【入れ歯】を活用する事で酵素Xと同じ成分の唾液が出るようになったそうです」

有能な秘書がひとこと。

「先生、会見の内容は【歯を大切に!】に変更しましょう」